「人口減少社会」について想像してみた!

1.はじめに

 日本を象徴する言葉として「人口減少社会」があります。テレビのニュースや新聞記事では勿論、経済学の論文等でも、これをテーマに議論がなされている場面を多々見ます。しかし、「人口減少社会」を迎えた日本が今後、具体的にどのようになるのかイメージ出来ていない 人も多いのではないでしょうか。かくいう僕も何も分からず、まあなんとかなるだろうという甘い考えしかもっていません。

 ただ、この「人口」という社会や経済に影響を与える1要素のトレンドが大きく変わるからこそ、制度設計者である中央官庁・地方自治体や市場経済の主役である企業が悩み・不安を抱きながら何等かの行動を取っているのだと思います。そこで、大して豊かでもない想像力を巡らせ良く分からない「人口減少社会」について考えるきっかけを得ようと、あるデータを眺めてみたいと思いました。

2.データ

 眺めるデータは国立社会保障・人口問題研究所が平成24年(2012)1月に行った「日本の将来推計人口」の表1.出生中位(死亡中位)推計(2011~2060です。一定の仮定を置いた推計である以上、ここに記されている「未来」が絶対に実現するわけではありません。ですが現段階において「人口減少社会」がどのような方向性にあるのかを知るためには抑えておいても損は無いと思います。なぜなら現状において把握可能な情報を参考に一定の仮定が置かれていると考えられるからです。

 眺める際の観点は以下の3つです。まずは基本的な人口数の推移を確認し、次に人口を構成する各世代の比率の変化を見ていきます。最後に生データに若干の処理を行い、推計期間に渡って僕ら世代が分類される「働き手」の負担の可能性について考えてみたいと思います。

1)人口の動向について

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 日本の全人口数は15年後の2030年に1億1660万人程度、30年後の2045年には1億270万人程度になり、45年後の2060年には8670万人程度と推計されています。数字の推移はもちろんグラフの総数の傾きが急になっていることから分かる通り、人口減少のスピードは徐々に速くなるようです。

 年層別の推移を見ると、0~19歳・20~64歳の層は一貫して減少し続けます。また65~74歳いわゆる前期高齢者は2030年までは減少するのですが、2030~2040年は一端増加しています。ただ2040年以降は再び減少傾向に入ります。これらの層が基本的に減少傾向にある中、75歳以上(後期高齢者)は40年後の2055年まで増加し、2060年に70万人程度減少しています。

 2060年の人口は2016年対比で約69%となります。仮に人口1人当たりのGDPが変化しないと考えた場合、2060年の日本の経済規模は7割程度となってしまうことになります。ただ今後45年間、技術進歩や資本深化といった1人当たりGDPの向上に資する現象が起きないと仮定することはあまりにも非現実的なため日本のGDPが7割程度まで低下する可能性は低いかもしれません。しかし、人口減少により経済規模に低下圧力の発生は必然のため、政府等が盛んに口にする1人当たり生産性を如何に上昇させるかが大切であることは理解できます。

2)人口の構成比について

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 年層別の構成比の推移を見ると「人口減少社会」を生きる人々の姿が、よりリアルに見えてきます。2016年に殆ど同じであった前期高齢者(65~74歳)と後期高齢者(75歳以上)の割合が、2020年には逆転しており、その後両者の差はどんどん拡大しています。高齢者社会という言葉も10年ほど前から頻繁に耳にするようになりましたが、将来的には2030年以降は日本社会の5人1人、2050年には4人1人が75歳以上となる「後期高齢者社会」がやってくるのかもしれません。

 高齢者が増加する一方で、相対的に若者となる層はどうなるでしょうか。0~19歳も当然一貫した減少傾向にあるのですが、主たる「働き手」であろう20~64歳の構成比の落ち幅が大きいことに目が留まります。2016年56%であったのが、2040年に50%すなわち半分程度になり、2060年には47%と半数未満となっています。

 高齢者の割合が4割にも至った社会では現在、問題視されているような「世代間格差」についてますます是正の動きが発生しにくい硬直的な社会になるかもしれません。再分配政策が多分に政治的な観点から行われている現状を鑑みると将来的にも高齢者のための政治という姿は継続するのかもしれません。

3)「働き手」の負担について

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 最後に「働き手」の負担という観点に目を向けてみます。20~64歳の年層を「働き手」、その他の年層を「非働き手」とみなし、現役世代によって生み出される富がどのように分配されるのかを見てみます。「非働き手(非20~64歳)」1人当りの「働き手(20~64歳)」数は2016年以降、徐々に減少しています。減少要因を特定するために「非働き手」を年層別に分け、各年層別1人当たりの「働き手(20~24歳)」数をプロットしました。

 前期高齢者と0~19歳対比でみると2060年に至るまで変動はあるものの概ね横ばい傾向にあることがわかります。一方で後期高齢者1人当たり「働き手」数は減少し続けています。働き手が産み出す富によって非働き手の生活を支えると考えた場合、働き手1人によって生み出される富は非働き手の中でも主に後期高齢者へと分配されると言えます。

 「働き手」の負担軽減を目的にし、0~19歳の層への負担を将来への投資と捉えた場合、まずは前期高齢者への働き手化を目指すことになるでしょう。現状では65歳までの定年延長または雇用継続を実現するために企業は様々な検討を進めています。ですが、こうした取り組みだけでなく今後は65~74歳の方々が働けられる環境・職域作りの段階がやってくるかもしれません。次に75歳以上の後期高齢者にはどのような取り組みが求められるでしょうか。当然、健康で働くことが可能な方々には無理のない範囲で働いてもらうことになるかもしれません。しかし、それに加え高齢化を原因とする体力や感覚機能の低下を如何に最小限にとどめるかが必要になるでしょう。金銭面に加え、非金銭面の負担を軽減するために特に感覚機能についての働きかけの重要度は増していくと思います。例えば機械学習を用いて向上した「音声認識」や「画像認識」のアルゴリズムウェアラブル端末に組み込まれ、後期高齢者の五感代わりに活用されることで日々の生活を支えるインフラとなるかもしれません。

3.おわりに

 今回は将来の人口推計というデータを眺めて3つの観点から日本の未来について想像してみました。はじめにでも言及しましたが、人口減少は少なくとも現在生きている日本人にとって、はじめて経験する現象であり、なおかつ経済規模の縮小というある種の負の側面をもっています。同じ不確実な状態であっても将来に対して楽観的な印象をもっているのと悲観的な印象をもっているのでは足元の行動に与える影響も大きく異なることでしょう。必ずしも楽観的になる必要があるとは思いませんが、せめて苦しくともどうにかなる程度の想いを抱けることは大切ではないでしょうか。

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学歴別の初任給を眺めてみた!

はじめに

 とある切っ掛けで、面白そうな時系列データの存在を知りました。厚生労働省調査による「賃金構造基本統計調査」です。どうやら産業・企業規模・職種・雇用形態などな様々な切り口から集計が行われているので、様々な場面で活用ができそう。

 折角なので、どれか一つデータを取り上げて簡単に眺めてみようと思いました。そこで選んだのが、新卒者の初任給についてです。このデータを選んだ理由としては、自分の過去の経験と新卒全体の傾向がどの程度異なるものなのかを知りたいと思ったからです。

データ

 実際に眺めるデータはこちら、賃金構造基本統計調査の「企業規模別新規学卒者の初任給の推移<昭和51年~平成26年>」です。これは1976年から2014年までの39年間というなかなか長期の時系列データとなっています。

 全期間を可視化しても当然良いのですがもう少し短い期間を見たいと思い、大きなトレンド変化があったように思えた1998年以降のデータをグラフ化することにしました。グラフにするにあたっては、大卒、高専・短大卒、高卒の区分毎にそれぞれ従業員規模別に初任給の推移をみています。

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 このグラフから分かることは、第1に従業員の規模よりも学歴の方が初任給の水準の高さを決定する要因となっているようです。これは一般的なイメージ通りなので特に特筆することはないと思います。またバブル以降失われた20年と呼ばれ、データの期間においては「ゼロ成長の時代」と言われながらも若干の増加トレンドにあったように感じます。

 もちろん、これより以前の期間は明らかな増加トレンドをもっていたので、成長が鈍化したというのは間違いのない事実だと思います。ただ、このグラフだけでは各学歴毎の特徴が分かりにくいので、更に学歴ごとのグラフをみていきましょう。

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 まず大卒初任給の推移をみてみます。「学歴」は同じであるため、従業員の規模に注目してみると、従業員が1000人以上の大企業や100~999人の中堅企業と10~99人の企業では初任給に若干の差があるようです。

 また初任給の増減については、規模の如何を問わず概ね同じような動きをしているものの、従業員が10~99人の企業に関しては変動が大きいように感じます。

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次に高専・短大卒についてです。こちらは大卒と異なり、従業員が100~999人の企業と10~99人の企業の初任給が同程度である一方で、1000人以上の企業はわずかに高い水準となっています。 初任給の増減は、大卒者と異なりどの規模の企業も落ち着いているように感じる。

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 最後に高卒者の初任給は、企業の規模を問わず同じような水準となっています。ただし従業員が100~999人の中堅企業は、2003年から2011年ごろまで最も低い水準で推移しています。また増減については1000人以上の大企業よりも、それ以下の企業の方が大きな変動をしているように感じます。

おわりに

 今回の目的はあくまで面白そうなデータを眺め、どんな特徴がありそうか考えてみることにでした。そのため上の各グラフに関する説明も簡単にグラフを眺めてみた時に感じた印象です。恐らくもうもう少しデータを加工すれば、今回とは異なった事実が浮かびあがってくるでしょう。

 例えば各系列の増減については、先ずHP(ホドリック・プレスコット)フィルタを掛けてトレンド成分を除去した上で分散または標準偏差を出してみると、生データから感じる動きとは違った印象をもつかもしれません。

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